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嗚呼第四十三潜水艦

作詞:酒井 慶三
作曲:近藤 信一

著作権:無登録

一、
外(そと)辺境に事繁(しげ)く
災禍の煙消えやらず
内(うち)凄愴(せいそう)の風吹きて
弥生の春も物寂し

二、
重き使命を身に帯びて
皇国(すめくに)護る丈夫(ますらお)が
今日しも競う演習の
砲声高し向後崎(こうござき)

三、
朝霧淡き湾口の
龍虎相撃つ修羅場(じょう)に
悲報起こりぬ潜水艦
四十三号沈みぬと

四、
全軍痛く驚きて
千々(ちぢ)に心を砕きしが
海底深く潮早く
施す術(すべ)もなかりけり

五、
間もなく引きし電線に
悲壮の声は伝わりて
生き残りたる勇士(つわもの)の
ありかは確(しか)と知れしかど

六、
ああ如何にせん人の業(わざ)
海魔の呪詛(じゅそ)に勝ち難(がた)く
救いの綱も切れ果てて
波風荒し海の面(おも)

七、
春三月の十九日
沈む夕日と諸共に
四十余名のつわものは
若木の花と散りにけり

八、
君に捧ぐる身にしあれば
誰か命を惜しむべき
されば千尋(ちひろ)の海底(うなぞこ)に
君の御艦(みふね)を守らんと

九、
黒白(あやめ)も分かぬ艦内に
入り来る水を防ぎつつ
殲(たお)るる迄も本分を
尽くしし最後君見ずや

十、
春雨(はるさめ)湿る弓張(ゆみはり)の
草木も泣かむ琵琶の海
幾日(いくひ)重ねて漸(ようや)くに
浮かび揚(あが)りぬ彼の艦は

十一、
御旗(みはた)靡(なび)きし昔日(せきじつ)の
雄々しき姿ひきかえて
司令塔辺壊れ果て
艦長の霊今いずこ

十二、
鉄扉(てっぴ)開きて細々(こまごま)と
人のありかを尋(たず)ぬれば
持ち場持ち場に留(とど)まりて
眠るが如き丈夫(ますらお)や

十三、
或(あるい)は紙片に筆太く
或は鉄扉(てっぴ)のあちこちに
残しし遺書は見る人の
腸(はらわた)断ちぬ幾度(いくたび)か

十四、
死に至るまで従容(しょうよう)と
事の始末を書(かき)残し
最後の万歳称(とな)えつつ
果てし心の健気さよ

十五、
至尊の御艦(みふね)失いし
罪を謝しつつ更にまた
遺族の上を偲(しの)びしは
鬼神も泣かむその義烈

十六、
戦雲晴れて間もなきに
軽薄の気風国に満ち
三千年の史を飾る
大和心の末如何に

十七、
七千余万の国民の
耳に響きし警鐘は
君が最後の一念の
凝(こ)りし言葉にあらざるか

十八、
目覚めよ和楽の春の夢
払え皮相の袖の塵(ちり)
世界唯一の国光(こっこう)に
光添えしは誰(た)が業(わざ)ぞ

十九、
消えにし命あだならで
遺(のこ)す教えは長(とこし)えに
活きて御国(みくに)を守りなむ
活きて御国を守りなむ

大正十四年

 ……大正13年3月19日、佐世保児島沖で演習中の第四十三潜水艦(のちの呂号第二十五潜水艦)は軽巡龍田との衝突により沈没した。艦長桑島少佐以下45名が殉職(のちに浮揚、再就役)。
 この歌は全国から歌詞を募集して作られたという。


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