一、
吉野を出でてうち向う
飯盛山の松風に
なびくは雲か白旗（しらはた）か
響くは敵の鬨（とき）の声
二、
あな物々し八万騎
大将諸直（もろなお）いづくにか
かれの首（こうべ）を取らずんば
ふたたび生きて還るまじ
三、
決死の勇にあたりかね
もろくも敵は崩れたち
一陣二陣おちいりて
本陣危うく見えにけり
四、
めざすかたきの諸直と
思いて打ちしその首（くび）は
敵のはかれるいつわりか
欺（あざむ）かれしぞ口惜（くちお）しき
五、
なおも屈せず追うてゆく
されど身方は小勢なり
あらての敵は遠巻きに
雨のごとくに矢を注ぐ
六、
今はやみなんこの野辺（のべ）に
すつる命は君のため
なき数に入る名をとめて
いでや誉を世にのこせ
七、
枕ならべてもろともに
一族郎党ことごとく
消えし草葉の露の玉
光は千代をてらすなり
八、
今も雲居に声するは
四条畷（しじょうなわて）のほととぎす
わか木の楠のかぐわしき
ほまれや人に語るらん
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