作詞・作曲：永井 建子 著作権：消滅（詞・曲）

一、 宵の篝火（かがりび）かげうせて 木枯（こがらし）ふくや霜白く 夜は更け沈む曠野原（ひろのはら） 駒（こま）も蹄（ひづめ）を寛（くつろ）げつ 音なく冴ゆる冬の月 楯を褥（しとね）の武士（もののふ）は 明日をも知らで草枕 夢は何処（いずこ）をめぐるらん 二、 昼の戦い烈しさに 当るを得手と斬りまくり 思うがままの手柄して 今宵は此処に宿り木の 身はまだ解かね鎧下（よろいした） 上ゆく雁（かり）に夢やぶれ そぞろに見やる故郷（ふるさと）の 雲井はるかにかかる月 三、 国を思えば雄心（おごころ）に 家は忘れて魂（たま）きわり ただ身ひとつをなき数に 入る峡（さ）の山の月影を 水に掬（むす）びて明日はまた 刀の目釘つづくまで 腕によりをば懸け襷（だすき） 華々しくぞ戦わん

明治二十六年

……作者が上杉謙信の「霜満陣営」の詩やワーテルローの「露営」の戦画を参考に、月下の陣を空想して歌詞を作ったという。 　作者によって「古典做作」との註がされており、ベルリーニ作曲歌劇「ノルマ」第一幕の合唱曲”Dell aus tura Profetica”の一部を用いている。