一、
白雪(しらゆき)深く降り積もる
八甲田山の麓原(ふもとばら)
吹くや喇叭(らっぱ)の声までも
凍るばかりの朝風を
物ともせずに雄々しくも
進み出でたる一大隊
二、
田茂木野(たもぎの)村を後にして
踏み分け上(のぼ)る八重(やえ)の坂
雪はますます深うして
橇(そり)も動かぬ夕まぐれ
せんなくそこに露営せり
人は垂氷(つらら)の枕して
三、
明くるを待ちてまた更に
前へ前へと進みしが
み空のけしき物すごく
たちまち日影かき暗し
行くも帰るも白雪の
果ては道さえ失いぬ
四、
雪降らば降れ我々の
勇気をここに試しみん
風吹かば吹けさりとても
行く所まで行かでやは
さは言え今は道もなし
あわれ何処ぞ田代村
五、
君のためには鬼神(おにがみ)も
取りひしぐべき丈夫(ますらお)も
国のためには火水(ひみず)にも
入らば入るべき武士(もののふ)も
今日の寒さは如何にせん
零度を下る十八度
六、
身を切るばかり寒ければ
またも露営と定めしが
薪(たきぎ)の無きを如何にせん
食のあらぬを如何にせん
背嚢(はいのう)銃身焚きつれど
そもまた尽きしを如何にせん
七、
雪のこの夜の更けゆきて
寒さはいよいよまさりたり
凍え凍えて手の指の
見る見る落ちし者もあり
神いまさぬかあなあわれ
命迫れり刻(とき)の間に
八、
居ながら死なんそれよりは
いずこへなりと行き見んと
山口少佐を初めとし
二百余人の兵(つわもの)が
別れ別れに散り散りに
たどり行きけり雪の道
九、
烏拉爾(ウラル)の山の朝吹雪
吹かれて死ぬるものならば
西伯利亜(シベリア)原の夜の雪
埋もれて死ぬるものならば
笑み含みてもあるべきに
ああ哀れなり決死隊
十、
ここの谷間に岩陰に
はかなく倒れしその人を
問い弔えばなまぐさき
風 徒(いたずら)に吹き荒れて
うらみは深し白雪の
八甲田山の麓原(ふもとばら)
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