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要塞砲兵の歌

作詞:石井 洵 (陸士二十期)
作曲:須磨 学之

著作権:無信託(詞・曲)

一、
崩るる潮の渦巻きて
水路はるけき太平洋
西に浮べる列島は
東亜の地をば守らんと
二千余歳の勲(いさおし)を
載せて麗わし華彩国(かさいこく)

二、
海の城ちょう艨艟(もうどう)も
守るに長し我がほとり
ただ固めたる要塞に
健児睨(にら)んで立てるあり
鯨頭(げいとう)我れに何かある
鯨尾(げいび)いかでか振わんや

三、
桃源(とうげん)の夢覚めし時
殊勝や長(ちょう)の武夫(もののふ)が
迷える民を訓(いま)しめし
砲(つつ)の響に外(と)つ国の
聯合艦隊(れんごうかんたい)撃破しぬ
由来我が眼に敵もなし

四、
また君見ずや麑城下(げいじょうか)
英船の胆(きも)ひしぎとり
錨(いかり)奪いし事あるを
子平(しへい)の身にはあらねども
民は得知(えし)りぬ海防と
我が帝国の保全をば

五、
そは改新の一径路
今や精(くわ)しき砲もあり
国の礎(いしずえ)打据えて
堅き塞(とりで)の十余ヶ所
たまたま時は遷(うつ)り来て
遠征もせし攻城隊

六、
攻城砲の猛(たけ)き威に
骸(むくろ)となりし旅順口
日の旗立てて固めなん
難攻不落の砦をば
孤狼(ころう)かくして黙すべく
渤海の権我れにあり

七、
遼陽の野に奉天に
敵の防備を仇(あだ)にして
歩兵導く重砲の
残る煙の底に湧く
どよめきの声勇むなり
先進の士の功高し

八、
さればや我は今ここに
呼ばば答えん富津崎(ふっつざき)
観音崎や横須賀や
ゆるく流るる春の水
昔の夢を浮かべつつ
我はここにぞ老(お)ゆるなり

九、
宮島の影清き時
紀伊の遠山(えんざん)青き頃
訪(と)えよ我が友この島に
行くや白帆を数えつつ
夕日の綾につつまれて
画中の身をば忘れなん

十、
神武東征(じんむとうせい)その折の
道やこれなる芸予海(げいよかい)
赤間ヶ関の海峡も
思いは過ぎて対馬沖
韓山(かんざん)の雲低くたる
神后(じんこう)の昔今にして

十一、
秋には来にけり澎湖島(ほうことう)
福州の波通わせて
我が武を伸べん日を計り
冬は津軽の海滄(あお)く
波長(とこし)えに動く上
雪白(せっぴゃく)遠し蝦夷の山

十二、
別れし君と文(ふみ)やりて
砦守りの将軍と
果てしもあらぬ大海(わだつみ)を
朝な夕なに眺めつつ
聖(ひじり)の国に捧げたる
我が運命(さだめ)をば悟る哉(かな)

明治三十九年

 ……歌詞に漢語が多用され、意味も難解であったため次第に歌われなくなっていったという。これを「重砲兵の歌」とし、砲兵の兵科の歌としては「砲兵の歌」が制定された。


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