[back...]



まえがき

'05 3/5 通常の整備でここまでやる必要はありません(笑

MOTOGUZZI V35 Imola(イモラ) ―

四半世紀前に生産されたイタリア車の面倒を見てくれるバイク屋は少ない。
現行国産車にない構造は独特で、しかも頻繁な調整を必要とする場所がある。
不運にも専門店ははるか遠く、悲しいかな知識を得る手段は蜘蛛の糸より細い。

手間はかかるし、お金もかかる。過去にはそれを理由に手放した人もいることだろう。
それらを乗り越えて、維持しようとする人の為に。

いつか、どこかで、誰かの参考になれば幸いである。

('06 11/13)



!謹告!

以下の文章を元に作業を行なった結果、生じた不具合等に関する一切の責任を負いません。

また、記された内容に誤りがある可能性があります。作業は自己責任で。



※作業前の注意
・エンジン内部への埃の侵入を避ける為、屋内での作業を推奨します。風の強い日に屋外でやらないこと。
・同様の理由で、開口部周辺は解放前にエアーかパーツクリーナーで埃を払うこと。

・バルブクリアランスの調整は、エンジンが冷えている状態(冷間時)で行なうこと。
 ポイントの調整と同時に行う場合は、バルブクリアランスを先に調整することを推奨します。

(以下の各写真はクリックすると大きな写真が別ウィンドウで開きます)



◆ポイントの調整方法
 ポイント点火方式とは、回転するカムで接点を断続させて火花を飛ばし(コンタクトブレーカ)、その誘導電流でプラグを点火する原始的な仕組みであり、現代においてこの点火方式を採用しているものはない。
 理由は、物理的な接点を持つので磨耗が発生し一定期間毎に調節が必要なこと、発生する電圧が一定でないこと、特に高回転において点火時期の精度が悪いこと、さらにはスプリングとカムが高回転に追随できないことである。

 '80年代のバイクにもかかわらずV35Imolaはポイント点火方式であるが、モデル発表当初の写真を見ると、ジェネレーターの上にあるべきポイントの収まったふくらみが無い。そして要目はCDI点火となっており、どうやら最初期のモデルはCDI点火であったらしい。何かしらの不具合が発生してポイント点火に戻したようだ。

 ポイントが磨耗して点火時期がずれてくる(通常遅れる)と、エンジンのかかりが悪い、一般的に低回転でボコついてスロットルの反応が悪い、アイドリング時排気に黒煙が混じる、プラグに煤が付着して真っ黒になるなどの症状が表われる。

 なお、V35Imolaは3,000rpmから機械式ガバナによる自動進角が始まる。

必要な工具
・ヘックスレンチ(4mm/5mm):
 4mmはオルタネータカバーの取り外しに、5mmはクランクシャフトを回す時に使用する。ラチェット式ものがやりやすい。カバーを外す時には50mm程度のエクステンションが欲しい。

・シックネスゲージ:
 少なくとも0.15/0.20/0.35/0.45mmが測定できるもの。0.05〜0.3mm9枚組で\800程度のものがホームセンターにある。
 ゲージを挟んだ状態で動かすと抵抗を感じるくらいが正規の状態。簡単に動いたり、まったく動かなかったりするのは誤り。必要に応じて0.15+0.3=0.45のように重ねて使用するが、枚数が増えるほど誤差は大きくなる。

・マイナスドライバー

・テスター:
 テスター棒の先につけるクリップがあると作業性がよい。

・タイミングライト:
 最終的な点火時期の確認に。安いもので\6,000から、自動進角の確認も出来るので自分で作業を行うなら買っておいて損は無いだろう。

1 オルタネーターカバーを外す
下に砂利が溜まってたりします。雨の日大丈夫か?

 エンジン前面のオルタネータカバーを取った状態。2つの円形のものは、上がポイント(カムシャフト)、下がオルタネーター(クランクシャフト) 。なお、圧縮があるとクランクシャフトを回しにくいので、プラグは外しておく。

 ポイントは、左右の接点がそれぞれ左右シリンダの点火を担当している。

2 ポイントのギャップ調節
右シリンダギャップ調整中、挟んでいるのは0.45mm

 カムシャフト(写真中央)のリフト量が最大になる点、すなわちカムに刻まれた線がスライダーの位置に来るように、反時計回りにクランクシャフトを回す。写真1-2は右シリンダがその状態。

 もし行き過ぎた場合でも、クランクシャフトを逆(時計回り)に回さないこと。もう一度反時計回りに回して合わせ直す。

 この時ギャップが0.35〜0.45mmになるように、黒リード線右側のマイナスネジを緩めて調節する。
 ポイント(コンタクトブレーカー)はバネの力で押し付けられているだけなので、ゲージを入れても少し力を入れると浮いてしまい正確な調節が難しい。マイナスネジ直下に切り込みが開いており、仮締めした後マイナスドライバーでこじって調節するようだが、これもやりにくい。
 経験上、ポイントにシックネスゲージを挟んだまま片手で接点同士を押し付け、もう片方の手で締めてしまうのが一番楽である。この時0.45mmを挟んでやるとちょうどよさそうだ。

 左右それぞれを行い、ギャップ調整は完了。

 なお、調整前にあらかじめポイントの当たり面を確認して、平滑でないなら800番程度のサンドペーパーを挟み込むように当てて軽く磨いておくとよい。大きなくぼみがあったり、余りにも荒れがひどいようならポイントを交換する。

3-1 タイミング調整(修正進角を出す)
このゴムキャップが外しにくい。。。

 エンジン右側、ミッションケースにあるタイミング点検孔のゴムキャップを外す。

 リングギアに打刻された修正進角位置のマーキングは写真の通り(・)。90°Vなので、このマーキングは270°ずれて2個存在する。
 4サイクルエンジンはクランク軸2回転720°で吸気−圧縮−燃焼−排気の4行程が完結するが、グッチの90°Vにおいては左シリンダが点火した後、クランク軸が270°回転して右シリンダが点火し、さらに450°回転してから再び左シリンダが点火する仕組みになっている。ここで90°ではなく270°と表現するのはそういう意味があるからであり、『270°クランク』と称される。

 年式によっては複数の修正進角のマーキングがあるようだ。詳細はマニュアル参照だが、上死点に近い方がV65用、遠い方がV35/50用。

3-2 タイミング調整(点火時期の確認)
覗きながら回すのは結構しんどいです

 テスターを接続する。プラスはポイントから出ているリード線に、マイナスはエンジンにアースする。写真は右シリンダの調整中。

 クランクシャフトを前からエンジンに向かって反時計回りにゆっくり回し、3-1の修正進角のマーキングが、タイミング点検孔左右のモールドを結んだ一直線上に並んだ瞬間に、導通が切れれば点火時期は正しい。

 ずれている時は、ポイントが載っている円盤を固定しているマイナスネジ2本を緩めて調節する(写真2の黒リード線左側にあるもの)。マーキングをずらしたいと思う方向の逆にに回せばよい。すなわち、点火時期が早い(マーキングがモールドより上)時は、円盤をエンジンに向かって時計回りに、遅い(モールドより下)時は反時計回りに回す。
 向かって左のマイナスネジ下付近に切り欠かしがあり、仮締めの状態でここにマイナスドライバーを差し込んでこじることにより、微妙な調節が可能。。。な理屈だが意外にやりにくい。

 反対側もチェックする。一方を調節すれば合っている筈だが、ずれているのはギャップ調節を失敗したか、ギャップが偏磨耗しているか。通常左のギャップ量を0.05mm単位で調節してごまかす(2に戻り、早い時はギャップを狭く、遅い時は広くする)。
 調整後、円盤を固定しているネジを本締めする時に、円盤がずれて動いてしまうことがあるので注意する。

4 最終確認
ぴったり決まると気分爽快  最後にエンジンをかけてアイドリング状態(1,300〜1,500rpm)にし、左右それぞれをタイミングライトで確認してOK。


'07 2/25 バルブクリアランス調整中。。。


◆バルブクリアランスの調整方法
 およそ40年来、空冷OHV(オーバーヘッドバルブ)縦置V型二気筒と言えば、それはモトグッチの代名詞であり続けている。その独特の形態は、シャフトドライブという独特の駆動方式と共に今に受け継がれている。言い換えるなら、OHVという古い方式を未だに採用し続けている、とでもすべきであろうか。世は30年前からより高回転に対応できるOHC、DOHCの時代になっている。

 ちなみに'80年代後半あたりに、350〜650ccのスモールツイン系列がすべてOHV4バルブ化されたことがある。不具合があった為か、次のモデルでは元の2バルブに戻されている。ビッグツインでは'90年代前半に1,000ccがOHC4バルブ化されたことがある。後継が出ることなくラインナップから消えたのは、やはり不具合があったためであろう。
 いずれのエンジンも、バルブ周りに故障が発生する確率が高いと聞いたことがある。

 メンテナンスの面から見ると、これほどヘッド周りにアクセスしやすい駆動方式はないだろう。ガソリンタンクを外さずにプラグを外し、シリンダーヘッドを開放できる車種は他にあまり例を見ない。

 OHVとは、クランクシャフトによって回転するカムの動きがプッシュロッドを介してロッカーアームに伝えられ、バルブの開閉をコントロールする方式である。
 このロッカーアームとバルブの隙間をバルブクリアランスといい、走行距離に応じて調節を行う必要がある。規定値から外れる(通常広くなる)と、一般的にヘッド周りからの異音発生、アフターファイアやバックファイアなどの異常燃焼、アイドリングの不調などの症状が現れる。

必要な工具
・ヘックスレンチ(4mm/5mm):
 4mmはオルタネータカバーとエンジンヘッドカバーの取り外しに、5mmはクランクシャフトを回す時に使用する。ラチェット式ものがやりやすい。カバーを外す時には50mm程度のエクステンションが欲しい。

・スパナ(10mm):
 クローズエンド(メガネレンチ、またはコンビネーションレンチ)のものがやりやすい。

・シックネスゲージ:
 少なくとも0.15/0.2/0.35/0.45mmが測定できるもの。

・マイナスドライバー

1 オルタネーターカバーを外す
防水性はゼロですな

 ここまではポイント調整と同じ。

2 シリンダーヘッドカバーを外す
埃に注意!

 シリンダーヘッドカバーを外し、ミッションケースのタイミング点検孔の黒いゴムキャップを外す。圧縮があるとクランクシャフトを回しにくいので、プラグは外しておく。

3 圧縮上死点を出す
ついつい回しすぎます

 クランクシャフトを反時計回りに回し、圧縮上死点を出す。リングギアに打刻された圧縮上死点のマーキングは写真の通り(−)で、修正進角(・)の少し後に現れる。

4 バルブクリアランス調整
共回りしない様に押さえ込むのが難しい

 バルブの動きを見ながら、掃気(吸気バルブ閉・排気バルブ開)→吸気(吸気開・排気閉)→圧縮(両方閉)となってから、3の上死点のマーキングが現れ、タイミング点検孔左右のモールドを結んだ一直線上に並んだところが圧縮上死点。プラグホールからピストンの動きも見ながらやるとよい。

 もし行き過ぎた場合でも、クランクシャフトを逆(時計回り)に回さないこと。もう一度反時計回りに720度(2回転)させて合わせ直す。

 写真は右シリンダで、下方にある2つの丸いものがバルブを押し上げているバルブスプリング。向かって左のキャブレター側が吸気バルブ、右のエキパイ側が排気バルブ。
 なお、写真中央の2本の棒がロッカーアームで、中央を支点として下端にバルブ、上端にプッシュロッドがある。カムの動きが上下動に変換されてプッシュロッドに伝えられ、ロッカーアームを介してバルブを開閉させ、燃焼室への給排気のコントロールを行っている。

 バルブクリアランスは、ロッカーアームとバルブの間隙を、規定値である吸気側0.15mm、排気側0.20mmに合わせる。調整は、ロッカーアーム上端のプッシュロッド側にあるアジャスティングスクリューによって行なう。
 手順は、まずロックナットを緩め、ロッカーアームとバルブの間にシックネスゲージを挟み込んで保持し、アジャスティングスクリューをマイナスドライバーで軽く締めた後、再びロックナットを締め込む。この時、ロックナットと共にアジャスティングスクリューが共回りするので、マイナスドライバーで調節しながらの作業になる。

 締め込んだらシックネスゲージを抜き(軽く抵抗があるくらい)、クランクシャフトを回してみてバルブ周りの動作に異常が無いか確認する。圧縮上死点を間違えていると、ロッカーアームからプッシュロッドが外れたりすることがある。正常であれば、全行程を通じてロッカーアームの動作にほとんど遊びはない。
 圧縮上死点のマーキングは360度に1回回ってくるが、一方のシリンダの点火時期は720度に1回である。右シリンダの圧縮上死点を出したつもりが実は左シリンダのだった、という間違いが比較的起こりやすい。バルブの動きをよく見て作業すること。

 反対側も同様に行なって終了。

 ちなみに、厳密にやるときはマーキングではなくダイヤルゲージを使用して圧縮上死点を出すが、私はまだやったことがない。ワークショップマニュアルにはそのやり方が載っている。



※作業後の注意
・外した部品を取り付ける際、ボルト類は外した時と同じ力で締め付けること。特にエンジン周りは締め付け過ぎると熱膨張でかじりつきを起こし、ボルトが外れなくなる。
 可能であればトルクレンチを用い、サービスマニュアルの指示に従って規定のトルクで締め付けること。

・外したボルトは埃の付着しない場所に保管し、取り付ける際にはネジ部と取付孔周辺をエアーかパーツクリーナーで吹いて汚れを取ること。

 ポイントとバルブクリアランスの調整は、作業内容に重なる部分が多いので、同時にやってしまった方がよいと思われます。3,000km毎のオイル交換と共に作業を行えば、この2点でのトラブルはまず発生することはないでしょう。



[back...]